第2回 「香しき灯り」 [道具]

「ピラミッド内部からは煤の跡が発見されていない」

このことは広く知られています。

少なくとも松明(たいまつ)が用いられていたのではないことがわかります。



しかし、「鏡を組み合わせて使った」というような考えは、発想としては面白いものの、単なる思い付きに過ぎません。少なくともピラミッド内部においてはナンセンスです。


エジプトは砂漠のある暑い国ですが、赤道直下ではありません。当然、北半球です。

アフリカでは、ずっと南のケニアのナイロビあたりが赤道に近いのです。

ギザは北緯30度1分東経31度13分。


一方、ピラミッドの入口は、多くが北側にあります。

とくにギザのピラミッド群はすべて北に入口があります。



次に、太陽の通り道を考えてみます。

「冬至」の日を考えてみましましょう。

北半球における冬至の太陽の南中高度(太陽が真南にあるときの角度)は、

「90度-観測地点の北緯-23.4度」

ですから、北緯30.1度のギザの南中高度は36.5度となります。


大ピラミッドの側面の傾斜角は約51.5度です。

つまり、ピラミッドの石材ブロックを入口より高く積み上げた場合、季節や時間によっては、


「太陽がピラミッド自身によって隠れてしまう」

のです。だから、鏡の組み合わせという発想は合理的ではありません。


(「南側から北側に鏡による光のリレーを行った」という考えもなくなはないでしょうが・・・)


鏡の使用について考える前に、私たちは「煤の出にくいランプ」について考える必要があるでしょう。



インターネットで「煤の出にくい蝋燭(ろうそく)」を検索してみると、

「蜜蝋(みつろう)蝋燭」

がすぐに見つかります。

蜜蝋(ビーズ・ワックス)は、蜂蜜をとった後の蜂の巣を圧搾して造ります。

古代エジプトでは、蜂を「ビト」と呼び、

ギザのピラミッド群が造られた第四王朝以前から、すでに原始的な養蜂が始まっていました。

蜜蝋は、ミイラの防水・防腐加工にも用いられました。




しかしながら、ほかにも煤の出にくい燃料はありました。

しかも、蜜蝋よりも安価なものです。

それは

「オリーブオイル」
です。


私も、実際に紐を灯心として、簡易オリーブオイルランプを作り、火を灯した上に紙をかざしてみました。

数分間かざしてみて、全く煤がつきませんでした。

この間、火は安定して燃え続けました。



第一王朝の頃、王に対し、税として納められていた物品には、

石や粘土の「ラベル」がついていました。

そのラベルには、原材料不明の「オイル」が記されていました。

このオイルの原材料の主たるものは、おそらくオリーブであったと思われます。

ゴマという説もありますがピラミッドの狭い空間でゴマ油の匂いは気になったはずで、

照明としてはオリーブに軍配があがると思われます。

(セサミオイルも一般的なランプの燃料として用いられていたことは否定しません)

ほかにも植物性オイルがありましたが、エジプト国内で栽培され、

一般に使われた形跡のあるもので、もっとも知られているのは、

やはりオリーブです。


ギリシアやローマ時代ほどには品質は高くないものの、

4500年前のエジプトで、安価で供給量が多かった油は、やはりオリーブ・オイルです。



地中海周辺からは、年代は下るものの、オリーブオイル・ランプが多数発見されています。

ギリシア、ローマが有名ですが、そもそもエジプトが、オリーブオイルの文化圏だったのです。

蜜蝋に比べて安価で、獣脂に比べ煤が出にくく、ゴマに比べて匂いがあまり気にならないオリーブオイルのランプ。

これこそ、ピラミッド内部の照明の第一候補ではないでしょうか。

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